「ざっとこんなもんかな・・・」
シュルリと背中のリボンを解きエプロンをキッチンの横にかける。
野菜をたっぷりと使ったシチューと香草のローストチキン。
熟れたトマトのサラダに冷たい果実酒。
忙しい夫に暖かい料理を食べてもらいたいので、
エドは料理を鍋に入れたままでエプロンを解き、色とりどりのお皿を棚から取り出して、
いつでも皿によそえる準備を整える。
「待ってても・・・いいよな」
ほわりと夕食の香りに誘われて、夫が早く帰ってくればいいのに。
エドはキュッとなるフローリングの床を進んで、玄関に着く。
暗い玄関に明かりを付けると優しいブラウンの光りが充ちていく。
『家に明かりがあるというのは嬉しいものだね』
いつかロイが言った声が蘇る。
自分を待っていてくれる人がいるという事がどれほど嬉しいか、
エドもよく分かっていたし、ロイにとって自分がそうであることが嬉しかった。
ロイの為に灯したその光りが揺れたように見えて、エドはパッと顔をあげた。
ピンポーン
続いて鳴らされたベルに急いでドアを開こうと腕を伸ばす。
「お帰りっ!!」
5日ぶりに夫に会えるという思いだけで開いた扉の先、
見えるのは青い軍服に黒い髪と瞳。
自分にだけ向けてくれると知っている優しい笑顔。
そうであるはずだった。
しかし、エドが玄関先で見たのは赤茶けた髪の小柄な男性だった。
「あっあんた・・・だれだ?」
男はニッコリと微笑み、玄関のドアからスルリと中に入り込んだ。