「あれ?あの車・・・また」

 

「また明日〜」とこちらも手を振りながら答えるが、頭の中は「変な人」と称された人物のこと。

 

一応、まだまだ車というものが珍しい状況で(学園内には所有している金持ちもいるのだが)

日を変えては黒塗りの豪華な車を学園の脇に乗りつける。

 

イライライライラ。

 

「あのやろ〜!!ぜってぇ一緒に帰ってなんてやらない!!!」

 

 

エドはどんどんと音がするのではないかという程に地面を踏みつけて歩く。

こんな所を生活指導のフュンフェル講師(白髪を優雅にまとめた公爵家に繋がる血筋の女性教師だ)

見たならば「あらあらエドワードさん」と目を丸くして咎めるところだろう。

 

 

 

エドワードが怒っているのは、極最近になって「家族」となった人物に対して。

 

 

若干12歳にして国家最高峰と言われる「国家錬金術師」の称号を得、

また実現不可能だと思われていた人体錬成をも成し遂げた頭脳を持つエドワード。

悲願だった弟と自分の身体を取り戻した後、エドワードは自分が何をしたいのか全く分からなかった。

 

そうして、「それならば、過ごしていなかった学生時代というものを過ごし直してみたらどうだい」という

言葉に「それもいいかも知れない」と受け入れたのはエドワードが17歳の事だった。

 

 

そして、その言葉をエドワードに言った本人は、

すでにエドワードを手に入れて満面の笑みを浮かべていたロイだった。

 

 

 

「おいっ!!どういうつもりなんだよ!!

 学校にばれるような事ばかりしてんじゃねぇよっ!!!」

 

 

「おやおや、愛しい妻を迎えにいくのをどうして咎められなければならないのか・・・」

 

 

「だからっ。学校側からそう言われてるんだってば!!!」

 

 

 

 

一緒に帰らなくても、帰る場所は同じ場所。

歩くエドワードの後ろをストーカーよろしく車でゆっくりと追いかけていたロイに対して、

エドワードはとうとう怒り出した。

 

 

エドワードが学園への編入試験を受けた時に、家庭調査の用紙に家族を書き込む欄があった。

そこにエドは何の躊躇いも無く、「夫、ロイ・マスタング」と書き込んだ。

 

それに焦ったのは学園側。

難関だと言われる編入試験を満点で合格した優秀な学生。

聞けばあの「鋼の錬金術師」だという。

 

学園の名を広めるためにも、この類稀な頭脳は惜しい。

 

しかし、学園というのは平穏が望まれて然るべき場所であり、

広がれば騒然と成る話題だと分かっているモノを受け入れていいものか。

 

あの、「鋼の錬金術師」と「焔の錬金術師」が結婚しているだなんて。

 

 

 

そこで学園側が入学に際して出した条件が、

「結婚しているという事を隠して生活してもらいたい」というものだった。

 

 

日常とかけ離れた新婚生活が幕を開けたのはそんな理由からだった。