エドは隣にある温もりを起こさないように気をつけながらベッドから這い出す。

どこまでも見通してしまうのではないかという漆黒の瞳も今は閉じられたまま。

 

クスリと笑ってそのまま部屋を後にした。

 

 

ジュウという音と食欲をそそる香りに寝ぼけていた頭が段々と覚醒されていく。

 

 

リゼンブールから届けられた新鮮なブロッコリーは鮮やかな色に茹でられ、

昨夜の多目に作っていた白身魚のソテーにもう一度軽く火を通す。

彩りにトマトケチャップでつくったナポリタンを入れる事を考えながら、卵を溶いていく。

 

エドはこうして時折、自分の分と夫の分のお弁当を作っていた。

夕食のおかずが使える時や朝の時間と自分に余裕がある時に限ってのことではあったが、

その作業は意外に楽しいものだとエドは思っていた。

 

その大きな要因の一つに夫が関係していることは明らかで。

思いついたままに、前日「明日お弁当を用意するから」なんて言わないままに

手作りのお弁当を差し出した時の夫の顔といったら。

 

「幸せとはなんだ」と難しく議論している学者どもに見せてやりたい程、

あの時の夫の顔は自分を幸せにしてくれたのだ。

 

 

「おいしそうな匂いだね」

 

朝食のトーストと簡単なレモンドレッシングのサラダとコンソメのスープも用意できかかった頃に、

夫は水色のストライプのパジャマのままで右手に朝刊を持った姿でリビングに現れた。

 

 

「ん。もう少しで出来るから・・・あとお弁当も」

 

 

未だにサプライズ的に用意されるお弁当の存在に、夫は一際柔らかく笑ってくれる。

その顔が自分は堪らなく好きなんだとそう思う。

 

 

「しかし、何だね。制服の上にエプロンでそうして朝食を用意してくれている姿は、

 どうにも朝から刺激的だと思うのだが」

 

ふむ。君を学校に送り出したくない気分だよと夫は幼な妻の額に小さなキスを贈った。