拍手ありがとうございます。
ロイエド子部屋にある【オーディ珈琲店】のお話ですので、
そちらの話をお読みで無い方は、目を通して頂けると内容が分りやすいかと思います。
オリキャラ満載ですので…はい。
【オーディ珈琲店】
その話が浮上したのは本当に突然だった。
「都市の開発」であったり「治安の向上」であるという理由のもとに。
「オーディ!!店を閉めるというのは本当なのか!?」
バタバタと音を立てて駆け込んできて、カラカランと軽快なドアベルの音が響く。
その男の突然の声に店でブレンドの味を確かめていた馴染みの者や
噂を聞きつけて豆の買い付けに来ていた者が慌ててオーディの方へと振り返る。
「本当なのか!!」とざわめきながら口々に客の間で波紋が広がっていく。
逆に当人のオーディは目をぱちくりと何度か瞬いた後に、
「まぁ…そんな話もありますが」と控えめに口を開いた。
オーディ自身が認めたとあって、まさに店の中は蜂の巣を突付いたような騒ぎであった。
「これもそれもあのチェーン店のせいだろう!!」
そうだそうだと大きくなっていく怒号にオーディは苦笑を返すしかできなかった。
【あのチェーン店】とは大通り沿いに出来たばかりのカフェの事だった。
軍上層部とつながりのある者がオーナーだという噂であり、
傍若無人な振る舞いと地上げに近い方法で土地を手に入れ、立地条件のよい場所に店を構えた。
焼きたてのパンとスープなどに合わせて珈琲などを提供している店である。
若い者たちにとっては目新しさとひと時を過ごす場所として流行っているようだが、
オーディ珈琲店馴染みの者たちにとってはとても馴染めるような店ではなかった。
格式ばったようでいて、難しい名前のならぶメニュー。
馴れ馴れしいくせに、味を訊ねても満足に答える事の出来ない店員たち。
こちらが求める内容の珈琲を示したところで「ご注文は?」は繰り返される。
オーディ珈琲店では考えられない接客だ。
一度注文した客の好みをオーディは決して忘れない。
しかし、それを来店の度に押し付けたりはせず、
聞かれた時にのみ「以前は…」と同じ珈琲を示すのだ。
「その時その時で望む珈琲は変わるものだ」というのがオーディの意見であり、
客は自分にとって「心地の良い一杯」と出会うことが出来るのだ。
それがオーディ珈琲店の売りであり、オーディ自身が目指しているものであった。
【オーディ珈琲店 2 】
「ははっ全く困った事だよ家の奥方さまには」
昨日から視察と銘打って司令部にやってきた一団。
一応、将官たちの視察であるから指揮官たるロイをはじめ、
その部下たちは接客に忙しかった。
何の為の視察なのか将官の口から出るのは武功であったり、
どんな褒章を受けたかという自慢話ばかりであった。
そして、ついには自分の細君の自慢に移ったところでロイは眉を動かした。
彼は妻の妹が「カフェショップをオープンさせたい」と言い出したものだから、
彼女の要望に沿う最適な場所とそこに見合うだけの立派な建物を用意したと言った。
最近になって【美味い珈琲】を味わうことを知ったロイにとって、
その情報は今までの自慢話よりも余程面白い話であるように思われた。
「そのカフェショップというのはどちらに?」
「あぁ、それがこの司令部に近くてな。
何でも大通りに面した・・・あぁあそこだ」
そうして示された場所は、ロイにとっても馴染みになりつつある場所であった。
丁度そのあたりに…オーディの珈琲店がある。
「しかし、どうも近隣の客が掴めないらしくてな。
近くに…その路地よりもずっと奥まった場所にあるらしいが、
それでも商売敵があるらしくてな。
また金を浪費させられそうだよ」
ははっと豪快に笑いながら金の使い方を自慢している。
確かにロイよりも地位の高い男で、給料も違うのだろうが、
それでも国家錬金術師の研究費も合わせて支給されているのだから、
ロイの方が総額的な給与は上だろう。
それに気付いていないのか
「いやいや金を使うというのも辛いものだなぁ」と醜く笑っている。
【オーディ珈琲店 3 】
「中尉、先ほどの話…どう思う?」
将官を見送ってから執務室に戻り、革張りの椅子に座るとロイは切り出した。
ホークアイもまたため息を一つ吐いてから、
「十中八九…オーディ珈琲店の事ではないかと」と答える。
将官が話していた路地奥の珈琲店というのはオーディ珈琲店だろう。
その理解は一致している。
ロイが気付いていることをホークアイが気付かぬはずはない、
ロイよりも以前にこの店を見つけてその珈琲を買い出したのはそのホークアイである。
「このまま放っておいても客がカフェに集まることはないだろうな」
革張りの椅子にもたれるようにしてロイが言う。
あの店に訪れたことのあるものならば、
誰であってもそう思うに違いない。
あの珈琲店に訪れている者たちが新しいカフェが出来たからといって、
店を代えることなど考えられない。
そう自然と思うことの出来る珈琲店なのだ。あの場所は。
「しかし、権力が加えられるとなると…店の存続自体に関わるかと」
例え客足が途絶えなくとも店を潰す方法などいくらでもある。
軍という権力をもったあの男ならば行いかねない。
「狸が…まったく余計なことをするものだ」
ロイはホークアイによって淹れられた珈琲を一口飲む。
豆の香ばしさと共に適度な苦味が感じられる。
「オーディ珈琲店を潰されるわけにはいかないな」
「えぇ、やっと大佐に適した珈琲を見つけましたのに」
はぁと盛大にため息をつかれて、少々ばつが悪いが、
それとは別の理由もロイにはあった。
あの珈琲が苦手だといった子が、
それでも飲めるといった珈琲を売る店。
あの年で満足に眠る事を自分に許さない少女にとって
心地の良い一杯を見つけてくれる珈琲店。
潰される訳にはいかない。
【オーディ珈琲店 4 】
「あっ姉さん!!あそこのカフェなら昼食もあるんじゃないの?」
その日、北部の村から列車を乗り継いで
エルリック姉弟はクタクタに成りながら目的の駅に着いた。
発射時刻ギリギリまで文献を読んでしまい、
慌てて乗り込んだ為に昼食を用意することができなかった。
いつもなら途中の停車時間に買い求めたり、
車内販売で何か買うことができたのに、
どういう訳か今回は停車時間が短く、また車内販売もなかった。
キュルルと鳴るお腹を押さえて「どっかでメシ…」と
エドワードの悲しい要求が繰り返されていた。
司令部まで行けば何かあるかも知れないが、
顔の知れた人たちに出会ってすぐ食事を要求する訳にもいかず、
ましてや、この腹の虫が鳴くのも聞かれたくなかった。
そんな恥じらいを持っている姉に気付いて、
こんな所はやっばり女の子だなぁと口に出さないままで、アルフォンスは思っていた。
しかし、必要だと思っているものは概してすぐに手に入らないもので、
こんな時に限って公園傍にあるホットドックの店や
お気に入りのドーナッツ店は合わせて臨時休業であり、
どうしようかと悩みつつ大通りを進んでいた。
姉の空腹を横で心配していたアルフォンスは見知らぬ店舗に気付いた。
大通りに面した場所に可愛らしいカフェが出来ている。
外にある木製のテーブルにはチェックのテーブルクロスが掛けられ、
その上に本日のお勧めメニューが置かれている。
今日のお勧めはクラブサンドに具がたくさんのトマトスープらしい。
飲み物はオレンジジュースなどのフレッシュジュースと珈琲などが選べる。
「姉さんここで何か食べていきなよ。ね?」
鎧の頭をコクリと動かしてアルフォンスはエドワードに言う。
あれ程空腹を訴えていた姉のこと、すぐに店に入るのかと思えば、
う〜んと躊躇う様子を見せる。
「どうしたの?」
「ここで何か食べるなら…うぅ…まっいいか」
どうしたのさと聞く弟に何でも無いと言いながら、
エドワードは出来たばかりなのだろうカフェに入った。
この店で珈琲を飲むのならば、
この先の裏通りにあるあの店に行きたかったのだ。
いらっしゃいと迎え入れてくれる店主に会いたいとも思う。
ただ、珈琲は体に悪いのではないかと言う弟と共に
オーディの店を訪れるのは気が引けた。
「珈琲飲まなきゃいけないくらい眠いなら、寝てよ!!」と
アルフォンスはよく怒っていた。
オーディに会わせればそんなお小言を店主に対して言いかねない。
…弟がそれ程無作法ではないことを知っているが、
それでもいい気はしないのではないかと思ってしまうのだ。
まぁいいか。
さっさと何か食べてしまって、報告書を提出して、
それから文献を探しにいく時にでも挨拶に行こう。
手土産にどこかの美味しいクッキーでも持って、
それから、あの珈琲を少しだけ持ち運びできるようにしてもらおう。
拍手ありがとうございました。
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