手を伸ばして何を掴もうというのだろう。
その手の先に望むものはすでに捨てたものだというのに。
「あんたなんか大嫌いだ!!!」
そうだね。
君の心を弄んだ私は大馬鹿者だ。
こんな私のもとから早く逃げてしまいなさい。
はやくはやく。
ここにいては危険だから。
「あいつは・・・気付いていたのか?」
「えぇ、大佐は気付いておられた」
「だから?」
「だから、貴女を自分のもとから遠ざけた」
「嘘までついて?」
「貴女を愛しているという事に嘘など無かったのでしょう」
後悔はいつも後から襲ってくる。
自分は嫌になるほど子どもで、
あいつの気持ちになんて全く気付いていなかった。
どれだけ。
どれだけ守られていたかなんて。
こんな別れは嫌だった。
もう二度と会えないなんて嫌だった。
それが覆らないという事実が嫌だった。
「これを一緒に」と渡されたのは一枚の写真だった。
中尉の細い手は、裂傷があった。
それは、彼の人とともに戦った証のようで、
痛々しい傷であるというのに、酷く羨ましいような気がした。
彼女は彼とともに居られたのだと。
それが堪らなく羨ましかった。
そして、悔しかった。
渡された写真には、そっぽを向いている自分と、
それを柔らかく見つめている男が映っていた。
いつ撮られたのか記憶にもない一コマで。
こんな目で彼が自分を見つめていたことにも今気付いた。
なんでもっとはやくと。
詰ることすら出来やしない。
君が知ったら怒るだろうね。
急な事に弱い君だから。
頭もよくて、直情な性格なくせに、
突発的なことに酷く弱くて、パニック体質で。
泣く事を禁じている君に、
暖かさだけを伝えていたかったけれど、
それはどうも出来そうにない。
願わくは君が進む未来に、
溢れるような幸せを望むよ。
「嫌い」と言われて、
正直、ショックだったよ。
そう言われることを願っていたのに、
やはりきつかったよ。
君の最後の言葉だろうと思ったから。
バタンと大きな音を立てたドアを暫く見つめていると、
唐突に「最後」ということを意識して、
不覚にも追いすがろうとした自分を恥じる。
これが君に私ができる最後のことだから。
黙って受け取りなさい。
それでも俺はあんたが好きだ。
私は君を愛していたよ。