鋼の砦 13

テロ事件は終結した。

 

2人の錬金術師の頭脳が解読したその暗号どおりに活動中の犯人たちを

警邏中のファルマン准尉・見張り役のフュリー曹長が発見の後確保。

 

手を焼いていた西方司令部の悔しがる姿が目に浮かぶような

そんな急展開だった。

 

あっけなさ過ぎるほどの逮捕劇の影に

錬金術師たちの才があったことを知るものは軍内に限られた。

 

 

犯人側の蓋を開けてみれば、

数人の有識者がいたものの、詰めの甘さは否定できず、

ずるずると犯人検挙という結果を生んだ。

 

犯人が次々に逮捕され、運び込まれるその東方司令部で

怪訝な顔をして、執務室に座るのは

功労者の1人であり、指揮官でもあるロイ・マスタング大佐。

 

 

功労者と言っても、それは軍人としての勤めであるのだから、

当然と言われてしまえばそれまでだが、

その頭脳を有し、早期解決に役立てたことは誰もが認知せざるを得ないこと。

 

そして、もう1人の功労者が

12歳の少年だということも同様であった。

 

 

 

昨夜、自分はどうかしていたのだろうか。

 

誰にもあれを見せたくはないと思った。

 

あれと言うのは、なぜか男で、

自分よりも14も年下のまだ少年と言っていいほどの年齢をしている。

 

 

エドワード・エルリック

 

 

類稀なその才能を見せたその後で

彼の弱さと言える部分を垣間見てしまった。

 

しかし、それは自分だけではなく、

直属の部下として傍についたハポック少尉もそうであった。

 

痛々しいまでのその姿を

その目に見たのは自分だけではない。

 

 

その事に言いようの無い、

今までに感じえたことのない感情が渦巻く。

 

 

事件は、あの後早期解決を見て

自分は指揮官としてそれを喜ぶ立場にいるのだろうが、

 

考えるのはあの少年のこと。

 

 

傍にいてやりたかった。

居られるものが羨ましいと嫉妬にも似た感情を持った。

 

だから

 

彼がその身をかけて取り戻そうとした者の名前を呼び、

自分とは違う者にすがりつく様にしたその光景を

 

見ていたくはなかった。

 

それが、悪夢故だとしても。

 

 

大丈夫だと

その言葉が例え自己満足にしかならないとしても、

震える肩を抱き、

金の髪を梳くってやりたかった。

 

しかし、それも出来ず、

自分の瞳以外にそんな彼を見せたくはなくて、

彼1人を残し、

部下を廊下へと引きずり出した。

 

考えてもおかしいと思う。

 

彼は男で、自分も男

 

流した浮名は数知れず、

夜を過ごす相手にも不自由したことなど一度も無い。

 

そんな自分が

疲れた体を休めることも出来ないほどに

考えるその人は

 

金色の蜂蜜を溶かし込んだかのような髪と瞳を持ち、

その体に似合わぬ罪を抱えたその姿で。

 

 

悲しませたくなどない。

あの瞳が揺れる様など似合うはずもなく、

 

彼の髪はあんな暗い場所で光るものではない。

太陽だとか、そんな明るいものが反射する場所で、

 

まだ、一度も見たことのない

彼の家に飾られたあの曇りの無い笑顔を

 

自分は見たいのだと思った。

 

 

他の誰かの為ではなく、

 

自分の傍でその笑顔を

 

見たいのだと思った。

 

 

そんなことを考えている自分が正気の沙汰ではないことは分かっている。

 

クシャリとその黒髪をかき上げる。

 

彼はあれから眠れただろうか

うなされる事はなかっただろうか

 

浮かぶのはそんなことばかりで、

 

自分が彼を特別に思い始めていることを

 

隠すことは出来ないと。

鋼の砦 14