ドタバタと騒がしさはここ数日の日常。

 

蒼い軍服を着た者たちは資料を抱え、あるいはボサボサの頭で

時計を気にしながらその靴音を響かせていた。

 

新たに捕獲されたテロリストは2人。

 

意識を無くしているものの、外傷無く取り押さえられたその2人は、

重要参考人としてこれから取り調べが待っている。

 

 

同時に司令部に担ぎ込まれた者が1人。

 

数時間前に穴が開いてしまった医務室ではなく、

司令官の執務室に急ごしらえのベッドが用意され、

そこに落ち着くことになった者が1人。

 

 

 

「なぜ、1人で出て行ったのだね」

 

「・・・・」

 

「テロリストを捕まえようとしたとでも言い訳するか?」

 

「・・・・」

 

「体調も万全ではないとゆうのに、寒空へ飛び出し、

 挙句にテロリストとご対面・・・」

 

 

シュンシュンと音がしているのは、

引っ張り出してきたストーブに、ヤカンが置かれているためだ。

そこから熱せられた水が蒸気として辺りに充満していく。

 

暖房器具は当然執務室に備えられているのだが、

空気を浄化する設備は故障中で、その為の苦肉の策であった。

 

 

 

急ごしらえのベッドの上には、

衣服を代えられ、髪をとかれた少女が1人。

勝気に見えるその瞳は話し続ける男の方へと向いてはいなかった。

 

 

 

「・・・捕まえられて良かったじゃん・・・」

 

ポソリと聞こえてくる声は、

蒸気の音にかき消されてしまう程に小さかった。

けれど、返事を待っていた男の耳にはしっかりと届いていた。

 

 

「私は、そんな話をしているのではない」

 

 

やっと口から出てきた言葉は、

男を酷くイラつかせた。

 

まるで、捜査協力をしたかのようなそんな言葉。

まるで、自分の事にこれ以上関わるなとそんな拒絶。

 

 

いつもの執務室にあるはずのないものが3つ。

 

ゆらゆらとした炎が燻る、ストーブ。

簡易ベッド。

そして1人の少女。

 

 

 

黒の上等な革で出来たイスにも、

フカフカとした高級なソファーにも座らず、

不釣合いな簡易ベッドの横に立つ。

 

 

顔を背けたまま、こちらを向かない少女は、

頑なな姿勢を崩そうとはしない。

 

 

自分が何故、ここまでこの少女に関わりを持とうとしているのか、

自分でも疑問であることは確かだ。

 

上を目指す自分にとって邪魔であるのかも知れない。

それは誰に指摘されるでもなく、よく分かっていることだ。

 

しかし、

手放すという気にはなれない。

ましてや、誰か別の後見人を紹介してやる気などさらさら無い。

 

窮屈な思いはどこまで行っても塞がっているように感じる。

そう、この少女が部下を弟と間違えたときや、

弟のためにと自身を投げ出そうとしたときの、

あの窮屈さ。

 

 

「私は・・・君に」

 

バタン

 

(何の音だ?)

 

 

わあわあと、どこか騒がしさが増した。

ただでさえ、この所のテロ騒ぎで軍部内は騒がしい。

しかし、それとはまた異にする騒がしさが感じられる。

 

 

リンリン・・・・リンリン・・・

 

今度はけたたましく、電話が鳴り響く。

 

まだテロの残党がいたのだろうかと思いながらも、

こちらに背を向けたままの少女に目をやり、

小さくため息を吐きながら、受話器を上げる。

 

 

「何の騒ぎだ!」

 

『・・・だからっ!!・・・あっ!大佐っスか?』

 

「ハボックか?何があった!?」

 

『ちょっと・・・ってだから、待てって・・・』

 

「ハボック?」

 

ガァー・・・ガチャ

 

『失礼します。リザ・ホークアイ中尉です』

 

「中尉かね・・・何があった?」

 

ガショガショ

 

『はい。困ったことになりました。』

 

ガションガション

 

「だから・・・うん?何の音・・・」

 

 

ガションガション

ちっと・・・待てって・・・あっ

 

 

「・・・中尉、困った事とは何だね」

 

ガションガション

 

『はい。ハボック少尉の必死の説得のかいなく、

 執務室に・・・アルフォンス・エルリックと名乗る者が』

 

「彼は、鎧かね・・・」

 

 

バタン・・・ドン

 

 

「いや・・・確認が取れた。エドワードの弟のようだ・・・」

 

 

姉弟そろって司令部を破壊するのが得意なようだ。

 

頑丈なドアを意図も容易く蹴り破ったのは、

これまた頑丈そうな鎧であった。

 

眼光鋭い巨大な鎧の腰には、

振り回されるように、ハボックがしがみ付いていた。

 

 

「失礼します・・・姉さんはどこですか!!!」

鋼の砦 25
鋼の砦 26